入居した初日から、隣に怒鳴られた——売主は、それを知っていた
念願の中古一戸建てだった。内見でも、書類の説明でも、気になるところはなかった。引っ越したその日から、隣の住人に怒鳴られる。大音量を浴びせられ、水をかけられ、暮らしが成り立たなくなった。あとでわかったのは、売主が、そのトラブルを前から知っていたという事実だった。実際の裁判例から、契約前にできることを見ていく。
事例
ある家族は、子どもと暮らすために中古の一戸建てを買った。内見のときも、書類の説明でも、不安に思うところはなかった。
引っ越してすぐ、隣の住人から怒鳴られた。子どもがうるさい、と。大音量の音を浴びせられ、ホースで水をかけられる。嫌がらせは続き、その家族は結局、住み続けることを諦めた。
調べてわかったのは、売主が住んでいたころから、同じ隣人とのトラブルが続いていたことだった。怒鳴られ、水をかけられ、物を投げられ、自治会長や警察に相談するほどだった。売主は、それを知りながら、買主には伝えていなかった。裁判では、売主と仲介した業者の説明義務違反が認められ、損害の賠償が命じられた。
解説
建物そのものに欠陥がなくても、近隣の深刻なトラブルが、契約するかどうかの判断に大きく関わることがあります。こうした周辺環境に起因する問題は、環境的瑕疵と呼ばれます。ただし、どこまでを説明すべきかの線引きは、はっきり決まっているわけではありません。日常の生活音のような範囲まで告げる義務があるとはいえない一方で、客観的に見て重大で、契約の判断に影響するトラブルは、説明の対象になり得るとされています。
宅地建物取引業法は、取引の相手の判断に重要な影響を及ぼす事項について、知っていながら故意に告げないことを禁じています。「環境」もその対象に挙げられています。裁判例では、売主が問題を認識していた場合には信義則のうえで、また仲介業者が、買主の生活に支障が出るような近隣の事情を客観的な事実として把握していた場合には、それを説明する義務を負うとされ、説明しなかったことについて賠償が認められた例があります。一方で、単なるうわさや、主観的な相性の問題までは、説明義務の対象とは認められにくいとされています。
なお、過去に人が亡くなった事案については国の告知のガイドラインがありますが、近隣トラブルや騒音などの生活環境は、そのガイドラインの対象には含まれていません。だからこそ、契約の前に、過去の近隣トラブルの有無を自分から質問し、その回答を書面に残しておくことが効いてきます。知っていて告げなかったことが後で問題になるため、質問して記録しておくと、判断の材料にも、後の備えにもなります。
契約前に、この一言で確認できる
この物件や近隣で、これまでに騒音や住人どうしの深刻なトラブルはありましたか?把握している事実があれば書面に記載してください。なければ「把握なし」とご回答ください。
業者は、知っている重大な近隣の事情を故意に告げないことを禁じられている。質問して回答を書面に残せば、後から確認でき、判断の材料になるため
確認のポイント
- 契約前に、物件や近隣で過去に深刻なトラブルがなかったかを業者に質問し、回答を書面に残す
- 現地は、平日と休日、昼と夜と、時間帯を変えて見に行く(騒音や人の様子は時間で変わる)
- 建物の共用部やゴミ置き場の張り紙・掲示を見る(トラブルへの注意が出ていることがある)
- 可能なら、管理会社や近隣に住み心地を聞いてみる
- 賃貸でも売買でも、近隣の事情は確認できる。入居後にトラブルが起きたら、日時と状況を記録して管理会社・貸主や相手方に対応を求める
- 困ったときは、消費生活センター(消費者ホットライン188)や、騒音・悪臭などは市区町村の公害苦情の窓口に相談する
関連する解説・チェックリスト
参考(一次ソース)
もし、もう困っているとき・確かめたいときの公的な窓口
トラブルにあったときも、契約前の確認のときも、次の公的な窓口に相談できます。いずれも中立の公的機関です。
- 消費者ホットライン 188(いやや) →
契約や解約でのトラブル・不安を、まず相談できる最寄りの消費生活センターにつながります。
- 国土交通省 宅地建物取引業者 検索 →
免許の登録内容を、国の公式データベースで直接確認できます。
- 国土交通省 ネガティブ情報等検索サイト →
行政処分の記録を、公表元で直接確認できます。
- 不動産適正取引推進機構(RETIO) →
不動産取引の相談・紛争処理を扱う公的な機関です。